販売員を長くしていても、製作者と直接お話しする機会はほとんどない。

初めて展示会というものに参加した時のこと。 セキミキのセレクトブランドで、主にブラウスを取り扱っていた。 白い壁と木の床に、ふわりと差し込む日差しがとても暖かい雰囲気で、 優しく迎え入れて下さったデザイナーさん、ナチュラル思考のアイテム達がとてもリンクしていた。

あるブラウスが目に留まって、勇気を出して話しかけてみた。 たっぷりとしたギャザーが素敵なブラウスなのだけれど、意外にも一番のポイントはそこではないのだとか。

「猫背に見えないように、背中のギャザーの位置はあえて下げたんです。」

……猫背？

「ふわっとしたギャザーたっぷりのシャツを作りたいことと、横からのシルエットのバランスがどうも納得いかなくて…。いくら可愛くても、着て下さる方が猫背に見えちゃったら残念じゃないですか。じゃあ少しだけ切り替えてみましょうか、てことで。」

思いもしなかった。
猫背のことまで考えられていたなんて。

(きっと何度もやり直しがあったのだろうな…)

「シャツってお洗濯が一番厄介に感じるものだから、一度洗いにかけて、しわや収縮率を確認してから製品化するんです。」

　　…店舗入荷したら、すぐに購入していた(笑)

　作られた背景は、販売員でも知ることは難しい。 ものを買う時の価値観はそれぞれだから、知っていたとしても、きっとすべてを伝えることが良いわけでもない。 何を伝えて、何を伝えないかは、販売員次第だ。

でも、できるだけ想像したい。

猫背に見えない
洗濯機でも問題ない
そんな、手に取る誰かにとっての魅力
買ってみるまではわからないこと

触って、着てみて、 素敵な理由を勝手に探して。